第26章 翡翠の誘惑
「……はい」
はいと答えていいものなのかと少し戸惑いはあったが、素直にうなずく。
「でもモブリットさんが自分から好きだと言うなんて…、思ってもみなかったです」
「あぁ、そうだろうな。認めたのは初めてだから」
「………!」
また驚かされる。
……初めて認めた…?
ハンジさんを好きだって気持ちを。
「あの…、どうして…?」
「どうして認めたかって?」
「はい」
「それは…」
モブリットの瞳に宿るかげり。
「きっと誰かに聞いてもらいたかったんだろうな」
マヤはその瞳の暗い色に吸いこまれそうになる。
「モブリットさん…」
「俺は知ってのとおり、分隊長に想いを寄せている。誰が見たって一目瞭然なんだろうが、決して気持ちを認めてはこなかったんだ」
モブリットは馬房の入り口の馬柵棒に、無意識のうちに手を乗せた。
「もともと最初から馬が合ったんだ、俺と分隊長は」
ブルブルブル!
モブリットが姿を現してからは、驚きっぱなしの主のマヤの様子をうかがっているのか息をひそめていたアルテミスが、突如鼻を鳴らした。
「……えっ? 馬という言葉に反応した? そいつは言葉がわかるのかい?」
「アルテミスはとっても賢い子なんです」
マヤはアルテミスの体に添えていた手のひらで、そっと撫でてやる。
「そうか。じゃあ俺はマヤだけでなく、アルテミスにも打ち明けることになるんだな」
「……大丈夫ですよ、モブリットさん。私もアルテミスも誰にも言いませんから!」
ブルブルブル!
息の合ったマヤとアルテミスを前にして、モブリットは愉快そうに笑った。
「あはは! それは頼もしいな。秘密厳守で頼むよ?」
「はい!」
ブルブルブル!
「じゃあ大した話ではないけど、聞いてくれ」
モブリットは馬柵棒に添えていた手に、ぐっと力をこめて掴んだ。