第26章 翡翠の誘惑
「……肝心なところ全部じゃないですか…!」
リヴァイ兵長が好きだなんて、はっきりと自身の気持ちを口にしたところを人に…、それも先輩で異性のモブリットに聞かれてしまったことが恥ずかしくて、マヤはそう叫んだきり顔を赤くしてうつむいてしまった。
「大丈夫だから…! マヤが兵長を好きなことはわかってるし、今さら恥ずかしがらなくてもいいって!」
なぐさめるつもりのモブリットの言葉は、ますますマヤを困らせた。
「えっ、そんなぁ…!」
「だってそうだろ? デートしたり毎晩食堂で二人のところを見かけるし…」
「毎晩じゃないです…!」
自分で言いながら、毎晩かどうかは関係ないことくらいわかっているが、とにかく今の羞恥から逃れたくて叫ぶしかなかった。
両手で赤くなっている顔を覆っているマヤに、モブリットは静かに話しかけた。
「……気持ち、わかるよ。俺も同じだから…。想う人のそばにいられたら、それだけで満足だったはずなのに…。なんて欲張りなんだろうな…」
その声色は長いあいだ心を占めてきた哀愁が滲み出ていた。マヤはハッとして、顔を覆っていた手を離してモブリットを見上げる。
「モブリットさん…、それって… ハンジさんのことですよね…?」
「あぁ、そうだよ」
「………!」
驚きで声が出ない。マヤは目を見開くだけで精一杯だ。
……モブリットさんが気持ちを認めた…?
もちろんモブリットさんがハンジさんを想っていることは知っている。……というか周知の事実である。
だからこそ飲み会で酔っぱらってしまったときにモブリットさんはハンジさんが好きなんだと口走ってしまったし、ニファさんだって…、ハンジさんと夜の部屋で過ごしてもモブリットさんが手を出すことのできない状態を “生殺し” だと言っていたわ。
みんなが知っているモブリットさんの想い。
でも決しておおっぴらにはしていない想い。
……公然の秘密だと思っていたけれど…。
今、はっきりと想いを肯定した…?
マヤの驚きをすべて、まるでわかっているかのようにモブリットは笑った。
「そんな驚かないでくれないか。俺の気持ちは…、よく知っているだろ?」