第26章 翡翠の誘惑
ギータには気の毒ではあるが、マヤとリヴァイ兵長はデートをした仲らしい。
ただマヤ本人も言っていたとおりに、一回デートをしたからといってイコールつきあっているという訳ではない。
……まだギータにだってチャンスはあるんだ。
恐らくこのままではシャイなあいつは、マヤに想いを伝えることもないだろう。
だから俺が、弟分だと思っているギータにチャンスを!
そう思って、とりあえずはマヤがギータのことを少しでも意識するように。
ギータの頭ん中はマヤでいっぱいなんだと気づけば、ギータを見る目が変わるかもしれない。
けれども、いきなりギータがお前に夢中だと伝えたならきっと、マヤは身構えてしまうに違いない。
だから最初は軽い感じで。
新兵の男なんてものは、女のことで頭がいっぱい。俺らの班の後輩三人組だって、そうなんだ。
その女っていうのは、マヤ… お前だ。
そうやって外堀を埋めていって、最終的にはジョニーとダニエルの感情は憧れみたいなものだけど、ギータのマヤへの想いは真剣なんだと伝えるつもりだったのに。
どこでどう間違えたのか。
目の前のマヤは顔を赤くして怒っている。
いや、本人は怒っていないと言っているから…、怒っているというより “そんなことはありえない” と強く否定している。
……すまん、ギータ。失敗した。
ギータに頼まれてやったことではない。
毎朝一緒に走るうちに弟分だと思うようになった可愛い後輩の想いを成就させたかった。いわゆる頼まれてもいない勝手なおせっかいってやつだ。
逆にギータは、俺がマヤにこんな話をしていると知ったら口をきいてくれなくなるかもしれないな。
……とにかく失敗した以上、マヤのこの強い否定感をなんとかおさめなければ。
「……悪い、マヤ。俺の勘違い… か?」
……なんとも間抜けな解決方法だが、致し方ない。
俺の勘違いだってことで丸くおさまれば。