第26章 翡翠の誘惑
……今年、俺の班に配属された新兵は全員男。
大きな体のくせに気の優しいギータ。ジョニーとダニエルはいかにもお調子者のコンビの雰囲気ではあるが、壁外調査では息が合っている。
そんな三人と兵舎で、訓練で、そして壁外調査でともに時間を共有するたびに、可愛い後輩として俺の中で大事な存在になっていった。
あるときを境に…。あれは確かマヤが俺のランニングの習慣を、あいつらに話したことがきっかけだったと思う。
ギータが早朝の自主練のランニングに加わるようになった。
どうせ三日坊主なんじゃないかと大して期待もしなかったが、毎朝欠かさずやってくる。
そうして一緒に流す汗の量に比例して、理解が深まる。何を考えているのか、何を好きなのか嫌いなのか。
無駄口を叩かないギータが、誰を胸に秘めているかも手に取るようにわかってしまった。
……びんびんに伝わってくるんだよな…。
なんの気なしに団長や兵長、分隊長にその他一般兵士の誰ということもなく、ああだこうだと話題に上げると決まって、マヤの名前だけに反応する。
あのそばかすだらけの頬が真っ赤になって、途端にしどろもどろだ。
……気持ちはわかる。
俺も新兵のときに恋心を抱いたのは、笑顔の優しい先輩だった。
毎日毎日、頭ん中は先輩のことでパンクしそうだった。
辛い訓練も恐怖の壁外調査もなんだって、先輩を想えば乗り越えられる気がしたもんだ。
だが…。
想いを伝える機会は永遠に失われた。
……ギータには俺と同じ想いをさせたくない。
何もマヤが死ぬと思っている訳ではないんだ。
ただ、ほとばしる熱い想いは伝えた方が絶対にいいんだ。
そして、ギータにはまだチャンスがある。
非常にかすかではあるが、可能性が。