第26章 翡翠の誘惑
「そんな訳であいつらの頭ん中はな… マヤ、お前でいっぱいなんだ」
「……え?」
もともと何が言いたいのだろう、新兵たちの興味が女子だからといって私に一体なんの関係が… と思いながら聞いていたが。
「何を言っているの… ですか…?」
「だからあいつらの頭ん中はお前でいっぱいで、一緒に訓練する時間が減ったから淋しがってるって…」
「そんな訳ないじゃないですか…!」
タゾロの言葉をさえぎってまで、マヤは否定した。
「確かに分隊長の執務のお手伝いをするようになってから第二部の時間に一緒に訓練をしなくなったし、そのつづきで夕食をともにすることもなくなったから淋しいってのはあるかもです。私だって淋しいです。でも私のことで頭がいっぱいだなんて…。そんなこと、ある訳ないです!」
「……そんな怒るなよ…」
予想外のマヤのあまりの剣幕に、たじたじとなるタゾロ。
……何をそんなに怒っているんだ?
「怒ってはないですけど、ギータとジョニーとダニエルが怒ると思いますよ? 私は男子じゃないから、タゾロさんの言う “女子のことしか頭にない” 状態のことは知りません。だからそこはそうだったとしても、その “女子” が私だなんて、そんなことある訳ないです」
「いや、だからそれはだな…。俺があいつらと一緒にいて、そう感じたから…」
「ギータが? ジョニーとダニエルが? 三人が私のことで頭がいっぱいだなんて、そんなことありえないです…!」
両こぶしを握って、頬を紅潮させながら抗議するマヤの姿を見ながら、タゾロは失敗したと痛感した。