第26章 翡翠の誘惑
律儀に深々と頭を下げたマヤをタゾロは笑い飛ばす。
「いいっていいって! そんな頭下げなくてもよ。マヤが忙しいのは、よ~くわかってるからな。ミケさんの手伝いだけでなく兵長のところも毎日行ってるんだろ?」
「ええ、まぁ…」
「それに晩メシも毎晩一緒だもんな?」
「ええ、まぁ…」
リヴァイとの話になってきて、マヤはしどろもどろだ。
「そうなるとあれだな、俺たちやミケさんよりも兵長と一緒にいる時間の方が長いよな?」
「……そうかもしれないですね」
「そうだよな。そりゃあいつらも淋しがるか…」
「あいつら…?」
「あぁ、俺らの班の可愛い新兵三人組だよ。昨日もあいつらと立体機動装置の整備をしたんだけど、最初にマヤの分もやっとこうかと言い出したのはあいつらなんだ」
「そうなんですね」
マヤは体の大きなそばかす顔のギータ、いつも二人で仲良くじゃれ合っているジョニーとダニエルの笑顔を思い浮かべた。
「あいつらが言い出して、結局は俺が整備することになったけどな…。訓練の第二部の時間はあいつらとつるんでやってることが多いから、結構あいつらが何を考えてるか知ってるぜ?」
「へぇ…」
……何を考えているのかしら?
マヤには見当もつかない。
「俺も新兵だった訳で、あのころは任務以外で考えることなんて… ひとつさ」
「ひとつ… ですか」
……美味しいごはん? それとも調整日に遊ぶことかしら?
「そう、まだニキビ面のやつも多い若い男の考えることなんかただひとつ、女だよ!」
「女… ですか…」
マヤの予想したごはんでも遊びでもなく、生々しく “女” だと告げられて、返答に困った声を出す。
「男の新兵なんか100パー、頭ん中女のことだらけ」
「えっ!」
マヤは心底驚いて、まじまじと目の前のタゾロを見つめた。