第26章 翡翠の誘惑
扉を背にマヤは立ち、リヴァイと向かい合う。
「……最初はマーゴさんが言ってきたんです。その… ジムさんが私のこと…」
言いにくいが、いつまでもそんな恥ずかしがっていても仕方がない。
「好きだって…」
音量は小さくなったが、言いきった。
「あぁ。……それで?」
マヤが話しやすいように、リヴァイはうながしてみる。
いつもより少しばかり優しい声に背中をそっと押されて話し始めた。
「……そんなの嘘だと思いました。ジムさんとはほとんど話したこともないし、夕食が遅くなったときには怒鳴られたし。むしろ嫌われているかと。だからマーゴさんの勘違いだと思っていたんです。でも壁外調査から帰ってきてから…」
壁外調査で巨人に襲われた記憶がよぎり、言葉に詰まる。
「大丈夫か?」
たったひとことでも、その気遣いで勇気づけられる。マヤはこくりとうなずくと、話をつづけた。
「食堂に行ったときジムさんがくれたんです、りんごを。お見舞いだと言って」
……すももの次は、りんごか。
果物を贈りたがるやつなんだなと、リヴァイは思う。
「それでペトラも、わざわざお見舞いにりんごをくれるなんてジムさんはマヤのことを好きなんじゃないかと言うし、もしかしたらそうなのかなって…。でもペトラやマーゴさんが言うから少しだけそう思ったけど、やっぱり本当のところはわからないです。ジムさんが何か言った訳ではないし」
……そうよ、ジムさんに好きだと言われた訳ではないわ。それなのにこんな風に人に話すなんて。
マヤはジムとの話をすべて終えると、急に自分が自意識過剰に思えて恥ずかしくなった。
しかしリヴァイに乞われて、ありのままを語っただけではあるし、この際仕方ないとも思う。