第26章 翡翠の誘惑
マヤが俺の顔を見上げている。
穢れのない無垢な白。常に俺を魅了する琥珀の瞳は、やはり透明感にあふれて潤いをたたえていた。
まっすぐに見つめられると。
途端に今から問いただそうとしている自身が、情けなく感じてしまう。
……訊くのをやめようか。
いやもう、今さら後に引けない。
「……ジムがマヤを…」
訊くと決めて口にしてみたはいいが、“好き” だとか “ほの字” だとか、そんな言葉を言えるはずもなく。
「その… なんだ、マーゴの言っていたことは本当なのか」
……なんだよ、かっこ悪ぃな…。
こんな風に事実関係を確かめたくなるなんて、怖ぇくらいにかっこ悪ぃ。
だがかっこ悪くても、知りたい方が勝っちまったものは仕方がねぇ。
「……あれはですね…」
表情から察するに、マヤは俺が質問することをわかっていたらしい。
「本当というか…、別にジムさんから直接何か言われた訳ではないので…、私にはわかりません。マーゴさんが勝手に勘違いして言ってると思っていたんですけど…」
歯切れが悪い。
何かを話すべきかどうか、迷っているようにも見える。
それが何か、ただちに知りたい。
「思っていたけど…?」
“話せ” とは直接的には命じてはいないが、声の圧がそう言っている。
「あの…」
マヤは訊かれたことはすべて話すのが一番いいとは思っているのだが、さすがに自身に好意を寄せているかもしれない男性のことを、事細かに話すことは…、それも自身が想いを寄せているリヴァイ兵長に話すことは難しいと感じた。
何やらためらっている様子のマヤを目の前にして、リヴァイは寄せられていた眉をゆるめて、できる限りおだやかに告げた。
「ゆっくりでいいから全部話してくれ」
「はい…」
ちょうどマヤの部屋の前に到着した。