第26章 翡翠の誘惑
「……これで全部です。なんだか… 話してみたら本当に別に何もない気がしてきちゃいました。りんごをもらっただけなのに」
照れ隠しに小さく “あはは” と、困り顔で笑ってみせる。
「……そうだな。見舞いのりんごだけなら、そうと決めるのは早計かもしれねぇが、あのマーゴがあれだけ自信たっぷりに大見得を切るんだ。きっとそうなんだろうよ」
どうしたものかとリヴァイは少しだけ考えを巡らす。
もっとジムとマヤのあいだに何か親密なものがあるのではないかと疑ったが、そうではなかった。
だがマヤははっきりと意識していないが、ジムの方は確実に好意を持っているらしい。誰が好きこのんで、わざわざ特定の一人だけに贈り物をするってんだ。
きっとあの口やかましいデリカシーのねぇマーゴのおせっかいに耐えながら、マヤに二回もとっておきの甘い果実を届けただろうに、鈍感なマヤには残念ながら気持ちは通じなかったらしい。
……気の毒にな。
何がどうなって俺とマヤがマーゴの言う “できちまった” ことになっているのかは、正直よくわからねぇ。
ジムだけではなく俺も残念だが、まだマヤとはそういう関係ではねぇ。
しかしそう思うなら思わせておいた方が、悪い虫がつかなくてかえって都合がいい。
リヴァイは確認した事実関係が想像よりも大したことがなく、逆に自身にとって好都合なことにすっかり気を良くして、口角を上げた。
「……そうですよね。マーゴさんが一番ジムさんのことをわかってるから、きっとそうなんですよね…」
自身の言葉に素直に同意しているマヤが、リヴァイにはやたら愛らしく映る。
「……どうしたらいいんでしょう?」
………!
まさかそんな風に質問されるとは考えてもおらず、リヴァイはとっさに何も答えられなかった。