第26章 翡翠の誘惑
それを見てからマヤも同じように銀のフルーツピックで、すももを刺して口に運んだ。
「……ん!」
噛んだ瞬間に口いっぱいにジューシーなすももの甘い果汁が広がった。
「美味しい…! 本当にマーゴさんの言うとおりに甘くて特別なすももなんだ…」
「確かに美味ぇな…」
マーゴが放った言葉の数々に、あまり気分の良くなかったリヴァイも認めざるを得ない。
それほどに、すももはリヴァイもマヤも今まで食べたことのないと思わせるくらいの強い甘さと芳醇な香りを持っていた。四切れあった果実は、あっという間になくなった。
「美味しかった…! ごちそうさまでした」
マヤが満足そうに手を合わせる。
「……行くぞ。俺たちが最後だ」
その言葉に慌てて食堂内を見れば、先ほどまでいた兵士たちの姿がない。
「あれ、本当ですね。いつの間に…」
「マーゴがべらべらと余計なおしゃべりをしているあいだに帰ったんだろうよ」
「あはは…」
やはりどことなく機嫌が悪そうなリヴァイの声色に、マヤは苦笑いだ。
……これ以上はマーゴさんが話していたことに、ふれられたくないなぁ…。
マヤはそんな思いで素早く立ち上がると、トレイを持ってカウンターへ行く。
リヴァイもそれにつづき、二人は食器を返却すると食堂を出た。
そのままゆっくりとした足取りで、一般女性兵士の居室棟一階の一番奥にあるマヤの部屋へ。
長い廊下を進みながら、沈黙がつづく。
……どうか、このまま…!
このまま無事に部屋へ到着し、リヴァイと別れることをマヤは願った。
あと少しで部屋だ。
マヤがほっとしたところへ、リヴァイの低い声が流れてきた。
「……さっきマーゴが言っていたことだが…」
……あぁ… やっぱり何も聞かなかったことにはできないよね…。
マヤは覚悟を決めて、リヴァイの顔を見上げた。