第26章 翡翠の誘惑
「そうだろ? さすが兵長ともなれば、よくわかってるね!」
リヴァイの皮肉など一切通じずにマーゴは、 “あっはっは!” と笑った。
「料理人は繊細でもあるし、奥ゆかしいのさ。だから兵長、そんな怖い顔しなくてもジムは迷惑はかけないよ」
「……迷惑とは?」
「マヤと “できちまってる“ んだろう?」
その言葉に眉を険しくして何か反論しかけたリヴァイを、マーゴは前掛けのポケットから右手を出して制した。
「いいよいいよ! わかってるから。ここの人間関係なんてものはね、カウンターの向こう側から…」
ひょいと背後のカウンターを振り向く。
「見てたら結構わかるものなんだよ。兵長とマヤはできちまった。そうなったからにはジムは別に二人の邪魔はしないよ、安心しな!」
またバチバチと意味ありげに片目をつぶったあとマーゴは、
「……そういうことだからマヤ、兵長とうまくやるんだよ!」
「えっ! あっ…!」
マヤがまごついているあいだに、くるりと背を向けて行ってしまった。
「すもも、ありがとうございます!」
厨房にまっすぐと向かっていたマーゴは振り向きもせずひらひらと手を振って、そのまま姿を消した。
すももとともに残されたリヴァイとマヤは…。
「「………」」
互いにちらりと相手の顔をうかがってから、二人の真ん中にどんと置かれた果実を見ている。
「……美味しそうな… すももですね?」
気まずい沈黙に耐えかねて無難なことを言い、愛想笑いを浮かべてしまった。
「……そうだな」
「せっかくですし、食べましょうよ。兵長、お先にどうぞ」
「………」
リヴァイは “いや、俺はいい” と断りかけたが、そうすればマヤがきっと困ると思い直して、皿にすももと一緒に乗せてある細身の銀のフルーツピックで果実を取った。