第26章 翡翠の誘惑
「……あ? そんなことは聞いてねぇが」
リヴァイは自分だけが疎外された気がしてくる。
レイモンド卿がどんな理由か知らねぇが、マヤを舞踏会に招待するらしい。
そのことをエルヴィンもミケも知っているのに、自分はこの食堂で邪気のなさそうな顔でぺらぺらとしゃべっていたマヤの口から聞くまでは、全く知らなかった。
エルヴィンはいい。
だがミケは… 王都に行ってないじゃねぇか。
それなのにマヤの直属の上司ってだけで、俺より先に重要な情報を知りやがる。
……面白くねぇ。
そんな気持ちのまま正面を見れば、マヤが困った風に眉を寄せている。
おおかた “どうして… こんなことになっているの” とでも思っているのだろう。
さっき俺の表情を “わかりにくいけど私にはわかる” などと得意そうに言っていたが、何を言っているんだ。俺の方がお前のことをわかっている。なにしろお前は見ていて面白ぇくらいにくるくると表情が変化するからな。
嬉しかったり楽しいと、ぱぁっと顔を輝かせるし、心配事があって不安な気持ちでいるときには泣き出しそうに琥珀色の瞳が揺れる。
そして今みたいに、その綺麗な形の眉を寄せているときは困惑しているはずだ。
……何を困惑する必要があるんだ。
レイモンド卿の招待なんか聞いてねぇものは聞いてねぇ。
そのまんまじゃねぇか。
「……そうでしたか。すみません…。お屋敷でレイさんに言われてペトラもオルオも団長も分隊長も知っているから、てっきり兵長も知っているんだと思いこんでました…」
しゅんとして、見るからに落ちこんでいる。まるで悪いことをして叱られている子犬みてぇだ。
「……別に謝る必要なんかねぇが」
「そうですか…?」
「あぁ」
「でも、怒ってますよね…?」
……は?
怒っているつもりなんか全然ねぇんだが、マヤにはそう見えるのか?
リヴァイが自身の表情に疑念を抱くと眉間の皺はより一層深くなり、それに呼応するようにマヤの眉は寄せられた。