第26章 翡翠の誘惑
リヴァイの不穏な心の動きなど全く気づいていないマヤは、無邪気な笑みとともに話をつづけた。
「……酒場に行けばいいじゃないかって。それで… 王都の酒場なんて、そんないきなり一人で行けないって言ったら…」
いよいよだと、マヤはすうっと息を吸った。
いよいよ、一番伝えたかった “王都の酒場へ連れていってほしい” と口にする。
「兵長と一緒に行ったらどうだと… 分隊長が言うんですけど…」
どんどん声が小さくなる。
……駄目だ。ちゃんと言わなくちゃ!
勇気を振り絞る。
「あの… だから、私と一緒に王都の酒場に行ってくれませんか?」
……言った!
マヤとしては、かなり頑張って誘いの言葉を口にしたのであるから、早く返事が欲しいところだ。それもできれば、承諾の言葉を。
だが一向に目の前に座っているリヴァイ兵長の口からは、何も発せられない。
そっと様子をうかがえば、それでなくても不機嫌そうに普段からそこにある眉間の皺は健在で、さらに深くなっているように見える。
……そんなに一緒に酒場に行くのが嫌なのかしら?
ううん、違う。もしかしたら私の説明の仕方が悪くて、意味不明なのかも…。
マヤがそんな風に思い悩んでいると、低い声が聞こえてきた。
「そもそも…」
「……はい」
何を言われるのだろうかと身構えてしまう。低い声は、どう考えても友好的なものではない響きを孕んでいる。
「……王都に行く予定でもあるのか?」
……あれ? レイさんが舞踏会に招待してくれたこと、言わなかったかな…?
そんなことはないはず、と思いつつも。
「それはレイさんが招待してくれた…、あっ、違います、まだですけど招待するからって言われていて…。もしかしたら社交辞令じゃないかと思うけど、団長もすぐにでも招待してくるだろうって予想したんです。だから、もう私の中では招待されたみたいな気になっていて…」
……ん?
なかば言い訳をしているみたいな感じで説明していたが、さすがに気づいた。
……兵長の様子がおかしい。すごく…、不愉快そうだわ…。
「レイさんが舞踏会に招待してくれるって言ったこと…、兵長は知らなかったんですか?」