ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
グリフやドクターが去ったドアを見て立ち尽くす。
「…おい、アッシュの兄貴は病院に行ったんだ。きっと大丈夫だよ。」
『…うん。心臓止まるかと思った。』
「ほんとバカだな。心臓止まる前提で飛び込んだのはお前だろ。…あんなんアッシュが見てたらそれこそ心臓止まってたよ。」
ハッとショーターが笑う。
『いつもそうなんだけどさ…、ショーターが大丈夫って言うと本当に大丈夫な気がしてくる。…パパみたい。』
「パ、パパって…!おいおい、俺そんな老けて見える!?失礼なヤツだな〜ッ!…ホントは俺たちこういうことしたっておかしくないんだぞ?」
ずずいっと顔を一気に近付けてくるショーター。
サングラス越しの目を見つめる。
「…おい、逃げろよ。危なかったじゃねえか。」
気まずそうに顔を離す。
『ショーターはそんなことしないもん。』
「いや、しねえよ?しねえけども!…ってお前、顔の傷。」
『え?なんかヒリヒリするとおもったら…あ、血出てたんだ。……ッ〜〜…だめだ届かない。早く治したいのに!』
舌を傷のあたりに精一杯出すが、全く届かない。
「…ぶふっ、お前今の顔やばかったぞ!」
「あははッ!…確かに、今のは…!ゆ、夢に出そうだよ…!!」
『…むむ。ひどい!…女の子の顔に傷が残ったらお嫁に行けないって何かのドラマで見たんだよ…』
私がしゅんとすると、エイジがからかうように
「…じゃあ僕が舐めてあげようか?」
『うん、お願い。』
「「!?」」
『…早くエイジ。傷が残ったら困る。』
「…いや、あの、今のは冗談で」
『私、…お嫁に行きたいの。お願い。』
アッシュ以外に傷を舐められるのなんて初めてだけど、傷が残るのは困る。
私はそんな迷信を信じてた。
「あ〜あ、知らねえぞ?」
「えっ、ショーター…!」
エイジに近付いて目の前で止まる。
それを見たエイジは、もう逃げられないと決心したように私の両肩に手を置いた。
「…ユウコ、ほんとにやるの?」
『うん、早く』
「……うん、」
気まずいかなと思って目を瞑って待っているのに、エイジは全然動かない。ぱっと目を開けると真っ赤な顔をして、熱を持ったエイジの目と至近距離で合う。
『…ッ!』
なんで、そんな顔してるのエイジ。
傷を舐めるだけなのに…
キスする訳じゃ、ないのに。