ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第2章 ナイトメアのはじまり
その顔を見た時、背筋が凍るような思いだった。
誰か助けて そんな言葉を叫ぼうにも喉はヒュッと空気を吸うことしか出来ない。
目がチカチカする、怖い怖い怖い。
全く動けずに震える私を見た男は
「おや、可愛いゲストだ、アッシュ」
そう言って足早にその部屋を出た。きっとここに向かっている。ガチガチと歯が合わさる中、ふいにベッドの上のアスランと目が合う。アスランは信じられないとでもいうような絶望の眼をしていた。
口をパクパクとさせながら彼は叫ぶ。
「ユウコ!逃げて!!早く!!!」
アスランの叫び声にハッとする。
動け、動け!私の足!!
助けを呼びに行かなくちゃ!
自分の手で拳を作り足を叩く。ようやく後ろを向いて一歩踏み出せた時だった。
「ユウコっていうのかい?可哀想にこんなに怯えて。」
背後から聞こえる男の声に再び足が動かなくなった。逃げろ、ここから立ち去れ、そう脳は警笛を鳴らすのに、足はその信号を無視し続ける。
「アッシュのガールフレンドか?…お嬢ちゃん東洋の綺麗な髪をしているね、どれ見せてごらん。」
そう言いながら肩より少し伸びた黒髪を1束取って口付ける。
「おいで。アッシュに会いたいだろう?」
アスランの時と同じように、私の肩に腕を回し玄関に入りすぐの角を左に曲がって先程外から見えた部屋に連れ込まれた。
中に入るとバタンとドアを閉め、子供の背では届かない位置にある鍵をかける。
するとおもむろに私が覗いていた窓際へ向かい、窓とカーテンをしっかり閉めた。
「アッシュの後をつけてきたのか?いつから見ていたんだ?」
空気が変わった。先程までの人当たりの良さそうな笑顔や子供に向ける甘い声ではなくなり、眉間に皺を寄せ、声は怒気を含んだ低いものになっていた。
何も言えずその場に立ちすくんでいる私に男が近づいてくる。影が落ちたかと思うと髪をガシッと掴んでベッドに投げられた。