ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
《英二side》
ユウコは目から大粒の涙を零しながら、両手で大事そうにメモを持ってじっと眺めている。
『(…これッ…どういう…っなんで、名前…っ)』
「(どういう状況で何故彼が僕にこれを書いて渡したか、それはキミには言えない…ごめんね?でも、これだけは言えるよ。)」
「(アッシュを信じていれば絶対に大丈夫。)」
『(…エイジ。うん…ッ…)』
そう言ってユウコは僕にその紙を名残惜しそうに返してきた。
本当はユウコが持っていなよ、と言ってあげたいけど…囚われの王子様が暗い牢屋から出てくるまで、お姫様は僕が守るという自分への誓いの為に持っておくことにする。
その時、慌てたような声がノックと共にドアの向こうで聞こえた。
「ユウコ!英ちゃん、そこにいる?!」
『…ぁっ、はい』
「僕が出るよ。伊部さん、どうしたんですか?」
「ああー!いたか英ちゃ……ん!?ちょっと、どういうこと!?ユウコを泣かせるようなこと…ってまさか!この前カップルを演じたからって本気で好きになっちゃったとかじゃ」
「ちがいますよ!!!…まあその、色々あって。」
「色々!?んん〜!」
「はぁ、で?なんの用事ですか?」
「…あぁ!そうだった!明日!刑務所に面会に行くことになったよ!英ちゃん、ご指名なんだ!!アッシュが君に会いたいって!」
「え!!」
僕は「あっ」とユウコを振り返る。
『………』
「…ユウコ、本当は君も連れて行ってやりたいんだが、この前の囚人たちの騒ぎが看守の耳にも届いているらしくてな…。連れて行けないんだ、ごめんな?」
『あっ…いえ、全然そんな…』
「何かアッシュに伝えておくことはあるかい?」
『あ、じゃあ…「早く会いたい」って伝えておいてください。…アッシュはエイジにばっかり会いたいみたいだから。』
目に涙を溜めて、顔を赤くし俯きながら言うその姿に僕と伊部さんは思わず目を合わせてしまう。
不覚にもドキッとした。