ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
《英二side》
「(ねえ……ユウコ。)」
『(うん?なあに?)』
「(…ユウコ・リンクス)」
『(ん…何?エイジどうし…)』
「(佐藤優子)」
僕はユウコの、どうしたのという言葉を遮って名前を呼んだ。
『(っ!?……エ、エイジ?どうして…)』
「(アッシュから聞いたんだ。キミの本当の名前。…あ、いや、本当の名前っていうのはおかしいか…日本での名前っていうのかな?)」
『(アッシュが…?嘘。いやいやそんな…私がアッシュにその名前のこと話したの、もう13年も前の話だよ?しかも1回だけ…)』
「(え、1回だけ?)」
『(うん…ケープコッドにきたばっかりの時、言葉が通じなくて寂しくて…母子手帳持って近所の公園にいたの。その時、あとから公園にきたアッシュが話しかけてくれたんだけど全く分からなくて…そしたらアッシュが自分のことを指さして何かを言ったからそれが名前だってわかったんだ。)』
「(うん)」
『(それで、私も自分のことを指して佐藤優子って言ってその母子手帳を見せたんだ。…ほんと、それだけでそのあとはユウコ・テイラーっていう名前で生きてきたし…今はユウコ・リンクスだし…。覚えやすい音だったのかな?)』
「(音?)」
『(佐藤優子って発音がさ、耳馴染みよかったのかなって。…あぁ、そうかぁ…嬉しいな…)』
「(いや、違うんだユウコ…。今のキミの話を聞いて、僕もちょっと信じられないんだけど…)」
僕はそういって、ポケットの中から2つに折りたたんだメモを取り出す。
『(なに?その紙。)』
「(これ、僕の目の前でアッシュが書いたんだよ。)」
ユウコが僕の手からそのメモを受け取り、開く。
『(…っ!……アッシュが、これを…エイジの前で?)』
「(あぁ、そうだよ。確かに僕の目の前で。)」
『(アッ…アッシュ…嘘……っ)』
「(僕も驚いたよ、サラサラと目の前で漢字まで書いたわけだから。…書き慣れているんだってことがすぐにわかった。)」