ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第10章 檻の中のLynx
《アッシュside》
「…ッシュ!……おい…」
「う……ん」
「しっかりしろおい!待ってろ今すぐ医務室へ連れてってやるからな!!」
俺が目を覚ますとマックスは俺の服を必要最低限に整えた。
そしてグッと抱き上げると、走るぞ!と言って図書室を飛び出した。
走る振動が伝わってきて、腰やらケツやらが悲鳴をあげる。
医務室へたどり着くと、マックスが説明した。
「まあ傷のほうは大したことないよ。なによりまたあばらをやられてなくてよかったな…こりゃごく最近やったもんだろ?」
「本当に大丈夫なのか?ドクター。ひどく参ってるみたいだけど…」
「そりゃーぐったりもするさ。よってたかって強姦されりゃー誰だって参っちまう。まあ死にゃあしないから心配しなさんな。…もっともエイズでも移されりゃ話は別だが。」
マックスが「んん〜」っと唸る。
「まー妊娠するわけじゃなし、化膿止めをうっといてやるからひと晩ここで寝てるんだな。」
「ドクター…」
「あぁ?」
「アタマ痛いよ…なんかクスリくんない?」
「頭が痛いだぁ?シャレたこというじゃねえか。」
「俺、粉薬とか錠剤だめなんだ…すこしでも味がすると飲めない…」
「いちいちうるせえガキだな…ほれカプセルやるから、これなら飲めるだろ?」
「サンキュー」
「本当はカゼや頭痛ぐれえじゃクスリなんぞやらねえんだ、仮病使ってクスリ貯め込んでラリるバカがいるからな。だからちゃんと飲めよ。」
「わあったよ」
俺は手のひらのシワにカプセルを挟み、口に入れるフリをして水を飲んだ。
「そーそー、いい子だ。」
ドクターがじゃあと言って部屋を出ていく。
「お前これから大変だぜ?ガーベイは味をしめちまったらしい。また襲われるぜ…」
「ごめんだな…」
その後、俺たちの会話は急展開する。
「バナナフィッシュ」の存在をマックスも知っていてその真相を追っていたこと。
チャーリーがマックスに俺を守れと言っていたこと。
俺の兄のグリフィンとマックスは同じ隊の兵士で仲が良かったこと。
ずっとやり場のなかった怒りの矛先を最悪の形で見つけてしまった。
…兄貴を見捨てた、この男を許すことはできない。
ーーここを出たらあんたを殺す。
マックスの背中は何も言わなかった。