ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
《アッシュside》
踵を返すユウコの腕を俺は掴んだ。
その瞬間、シャラと音を立てて何かが床に転がった。
ユウコは慌ててそれを拾い上げた。
「…お前、それ」
『……』
「あの時、あいつに」
『………っ』
「…そんなもん、いつまでも持ってんなよ」
オーサーの手に触れ、ヤツの手に千切られたそんなもの。
すると、ユウコは涙目になって俺を睨みつけた。
『そんなもんなんて言わないで!…これは、私の宝物なの…例えプレゼントしてくれたアッシュでもそんな言い方は嫌だ…っ、もうあの時みたいに思っててくれなくても、それでも…わたし』
「……」
必死になってネックレスが宝物だと訴えるこいつを見ていたら、つい先程まで胸を支配していた黒い渦がスッと晴れていった。
「…あの時みたいにって何?」
『……それは、』
「教えてくれないの?…ん?」
ユウコの顔を覗き込むように言うと、ユウコは顔を背けて『アッシュだって、何も教えてくれない』と鼻をすすった。
そんなこいつが愛おしくて、抱きしめてしまいたくなる気持ちをグッと堪えて頭を掻いた。
「OK…わかった、全部話すよ」
『え、ほんと?』
「だから、もう泣くな」
『な、泣いてない…』
「どうかな?」
俺は俯くユウコの頬に触れて、こちらを向かせた。パチッと合った目はやはり潤んでいて、俺は親指でそれを拭った。ふとユウコが手にするネックレスに目がいく。
「あれ?…それ、直したのか?」
『エイジがね、直してくれたの』
「へえ、そりゃあすごいな。さすが日本人」
そう言ってから、傷の手当や包帯を巻くのがド下手だったエイジを思い出して俺はフッと吹き出した。
「それ、もう着けないのか?」
『…着けても、いいの?』
「ああ、当たり前だろ?」
『……あの、アッシュ』
「ん?」
『もう一度着けてくれる…?』
「……ああ」
俺はネックレスを受け取り、ユウコの背後に移動した。そしてユウコに気付かれないようにそれを唇に当てる。
…こいつを護ってくれ、そんな願いを込めて。
俺は、あの時のようにこのネックレスをユウコの首に回した。
「っ…!」
一瞬脳裏に首輪を着けたユウコが蘇って、それを振り払うように咳払いをした。