ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
《アッシュside》
「な、んだって…」
言葉を失ったようにパクパクと口を動かすおっさんの前にステーキが運ばれてきた。
「…メインがきたよ父さん、食べないの?」
「おい、はぐらかすな!お前は一体…どんな魔法を使いやがったんだ!?」
「ハイテクの勝利さ…
情報はベッドの中で、なんてことわざなかったよね」
俺は頬杖をつきながら、丸みを帯びる特有の内装を眺めた。
「ヤツの寝室へ自由に出入りできるのはお気に入りの“ペット”だけ…あの変態じじいがトーサクしたセックスに浸ってる間、俺は別のことを考えてた。あいつは相手をさせる連中を人間とも生き物とも思っちゃいなかった。ただのもの言うセックスの道具さ…俺のことも最初は脳みそがあるとも思っちゃいなかったろう」
「………」
「…とにかく、これで他の関連企業も母体であるM&Cカンパニーも影響は免れない。タコおやじもなりふり構わず買い支えに走らなきゃならない。一時的に持ち直すことはできるだろう、が1度弱味を見せてしまうと…」
「乗っ取り屋につけこまれる…あるいは他の組織の資本が介入してくるか…」
「あたり。冴えてるね、父さん」
「……」
「5000万ドルも、元々ブラックマネーだ…表沙汰にはできない。そしてパナマのヤツ自身の隠し口座を一旦通してスイス銀行の俺の秘密口座へ」
「な、何!?」
「ただしパナマから先の金の動きは一切わからない。タックス・ヘイブンにありがちな銀行の“極秘主義”によってね…自分たちが悪用してきた制度にしっぺ返しを食わされるわけだ」
「ディノ・ゴルツィネが…詐取したように見せかけたわけか?」
「…またあたり、これでヤツは多大な損害をコルシカ人財団に与えたことになる。釈明のため、マフィアのテーブルにつかざるを得なくなるわけだ…あいつがどう釈明するかみたいものさ。ペットにしていた小僧にいっぱい食わされましたとかね?」
「………ユウコはこのことを?」
「やだな、あいつも共犯さ」
「そう、なのか」
「ただ、俺たちが街の警官から追われてるってことは伝えてない。今は大人しく隠れさせてる」
「大人しく、してればいいがな」
「しててくれなきゃ困るね」
おっさんはハァと長いため息を吐いた。