ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
《アッシュside》
「Excuse me.」
顔を上げると2人のおまわりが俺を見下ろしていた。たちまち足元のリスが逃げ出してゆく。
…きたな。
俺は内心ニヤリと笑いながら、表面ではあのしおらしい表情を浮かべた。
「失礼だが、身分証明書を見せてもらえるかね?」
「は…はい」
例の手帳を差し出すと、ヤツらはパラリとそれを捲った。
「クリストファー・ウィンストン?ギュンター・フィリップス高校の2年だね?」
「フィリップスといえば名門だ、秀才だな…すまないがメガネをとってもらえるかね、クリス?」
“クリス”
その響きに記憶の中の幼い俺がチクリと胸を痛める。
「…………」
俺はメガネをとって、まっすぐ警官の目を見た。
「グリーン・アイズだ、似てるといえば似てるな」
「あー…そのブロンドは生まれつき?染めてるわけではないのかね?」
ふと、警官の後ろ側に現れた男が目に入る。
ーー待ってたぜ、おっさん。
「父さん!」
「「!?」」
「…父さん!」
「失礼だが、息子に何か?」
「……」
俺はおっさんの後ろに隠れて、“突然警官に声をかけられ、驚きと恐怖でどうしたらいいかわからない”そんな表情を作った。
「息子さん……ですか?」
「そうです、久しぶりに昼食を一緒にと思ったのでね。ああ、私の身分証明書も必要ですかな?私はエディス・ウィンストン…アメリカズ・バンクの副頭取を務めています、これは一人息子のクリスで…」
「あ、いや…失礼しました、どうやら思い違いのようだ。これも職務のうちなので…すまなかったね、クリス」
「……いえ」
「では失礼。行こう、クリス」
「ご協力感謝します」
おっさんに肩を抱かれ俺たちは歩き始めた。