ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
コートをひらりと翻して部屋を出てったアッシュを私は目で追っていた。
『わかってないじゃん…』
イメージチェンジなんかじゃないことくらい見ればわかる。アッシュが嘘をつく時の癖だって…もうずっと一緒にいるんだから。
それでも私が一緒に行きたいと無鉄砲に後を追えば、きっとまた足を引っ張ってしまう。アッシュが私を作戦に加えてくれない時は、大人しく待つしかないんだ。
『……役に立ちたいのに』
その場でしゃがみこみ、膝に顔を埋めた。
ガチャ、
「ねえユウコいる?…って、キミ大丈夫?具合悪いの?」
『あ、エイジ…ううん、大丈夫だよ』
そう言って笑うと、エイジはそうそう!と手を叩いた。
「今さ!廊下でアッシュに会ったんだけど、どうしちゃったの?あの格好!なんだかいいとこのおぼっちゃんみたいだった」
『ああ…なんかね?イメチェンしたんだって』
「イメチェン!?」
エイジは大きな目を更にまんまるにして私を見た。
『…はあ』
「ユウコ、元気ないね?」
『そんなこと』
「アッシュのこと?」
『………』
「そっか」
『私何も言ってないよ』
「ははっ、たしかに!…そっか、キミはもう普通には戻れないんだよね」
『え?』
「ん?…なんでもない。そうだ、美味しそうなドーナツを買ってきてもらったんだ!コーヒー淹れようか?」
『うん、私エイジのコーヒー好きだよ』
「ほんと!?それは光栄だなあ」
嬉しそうな笑みを浮かべ、キッチンに消えていったエイジ。
私は頬を両手でパチンと挟んで、気持ちを切り替えようと伸びをした。