ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
《英二side》
「…ったくもう、これだからアメリカ人ってヤツは!」
僕はキッチンへ足をドンドンと鳴らしながら入った。
チチチチッと音を立てて火をつけ大きく息を吐く。
…まあいいか、オレの膝に縋って泣くなんてあいつもまだまだ子どもだぜ!
しばらくして沸騰したお湯を、3つのマグカップにそれぞれ注ぐ。インスタントだけど十分すぎる美味しさと香りのコーヒーが出来上がった。
トレーに乗せてさっきの部屋へ戻ると、2人は何か難しい話をしているようだった。
「………」
それを見つめて僕は思う。僕のよく知るユウコは小柄で顔立ちも可愛くて、幼なじみに恋をしている普通の女の子だけど、それは決して表向きの顔ではない。
表向きのユウコは、ユウコ・リンクスという体術や銃の腕前がピカイチで、あのアッシュ・リンクスと肩を並べられる恐れるべき存在なんだ。
…それもそうだよね、よくよく考えてみればユウコだってあのアッシュといくつものピンチを乗り越えて来たんだもん。ショーターがいつだったか言っていたように、ユウコは守られてるだけで満足するようなその辺の女の子とは違うんだ。
「………」
キミが普通の女の子だったら、銃を持ちたいと懇願することもなかっただろう。キミが普通の女の子だったら、きっと今のように望まぬ相手に体を弄ばれることもなかっただろう。
…キミが普通の女の子だったら、好きな人を好きでいることに負い目を感じることなく、ただただ真っ直ぐに愛をアピールできていただろう。
「……はあ」
思わず吐いたため息に、2人は一斉に顔を上げた。
『どうしたの?エイジ』
「なんだよ、お前まだ怒ってんのかよ」
「あっ…いや、ちがうよ。これ飲むだろ?僕コンタクト入れてくるね」
『わぁいい匂い、ありがとう』
「………」
刺さるようなアッシュの視線を背中に感じながら、僕は小走りに洗面台へと向かった。