ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第29章 Perfect Crime
《アッシュside》
「……ユウコ、」
あいつの名前を呼ぶ自分の声で目が覚める。
ゆっくりと目を開けると、体に重みを感じた。
「んー……」
「…………」
この重みの正体はエイジだった。
エイジの体をずらし、俺はベッドから降りた。
窓の前に立ち、シャッターを上げ窓枠に腰掛ける。
まだ日が登りきる前の、うっすら白んだ街並み。
俺はどこか心の荷が降りたような気持ちでそれを眺めた。
すると、コンコンと控えめなノックが聞こえる。
ユウコだ、反射的にそう思った。
案の定返答を待たずに入ってきたのは、起きたばかりであろうユウコだった。
遠くから俺を見つめ、言葉を発することなく部屋へ戻ろうとする。
「どうした?」
俺が声をかけると、ユウコは足を止めて俯いた。
「また、嫌な夢でも見た?」
『………うん』
「こっちこいよ」
余程気分が落ちているのか、小さな体はいつもよりも小さく見えた。近くまでやってきたユウコは突っ立ったまま顔を上げない。屈んで顔を覗き込むと、唇をキュッと噛んで眉を寄せていた。
「……大丈、」
『アッシュ』
「ん?」
『あっち、向いて?』
あっちと指されたのは、窓の方だった。
疑問に思いつつ言われた通りに体を窓側に向ける。
するとユウコは、俺の背中に触れた。
「…なに?」
『羽』
「羽?」
『…羽、生えてない…よかった』
こいつが何を言ってるのかまるで意味が分からなかったけど、きっと見た夢に関係しているんだろう。
『……こわかった』
「なに?夢の中の俺は、怪物かなんかだったの?」
あまりに悲しそうな声で呟いたユウコに、俺はわざとおどけてそう言った。
『天使だった』
「は……え、天使…?」
『うん、あ…ごめん、困らせて』
「別に困っちゃいないさ」
俺がそう言うと、ユウコは俺の背中に額をコツンと当てた。
『アッシュ、今ここにいるよね…?』
「ああ」
『さよならじゃないよね?』
「…ああ」
『よかった…置いていかないでね』
「…俺がお前を置いていったことが今までに1度だってあったかよ?」
『そう、だね』
背中の頼りない温もりに、軽く振り返り声をかける。