ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第28章 殺人鬼の涙
《英二side》
苦しそうなうめき声に目が覚めて、目をこすり声のするほうに体を向けた。
「う、…っく」
「…アッシュ?」
暗いしコンタクトを外してるからぼんやりとしてよく見えないけど、きっと魘されているんだと思う。起こそうかどうするか迷っていると、アッシュは一際大きな声をあげてバッと体を起こした。
「…っはあ、はあ」
僕は咄嗟に目を瞑り、寝たふりをした。
するとアッシュは静かに部屋を出てどこかへ行ってしまった。
それからしばらくして隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。
僕はふと今朝の会話を思い出す。
ーー「…なんだよ、別にちゃんと寝れてるか覗いただけだろ」
それはユウコが今みたいに魘されてないか見に行っていたってこと?
“ちゃんと”
その言葉の意味は、彼が言ったとおりそのままの意味だった。魘されることなく、ちゃんと眠れてるかって…きっとそういう意味。
「…もう…なんで、」
あまりに酷な実情に八つ当たりのような独り言が漏れた。
それほどまでに2人は、悪夢に魘され続けてきたということなのか。
眠っている間すら心の休まる時間がないだなんてあんまりだ…。
アッシュの苦しそうな息遣いが耳にこびりついて離れない。
気が付くと体を起こしベッドを降りていた。
やっぱりどうしたって気が付かなかったふりなんて、僕には出来ない。