ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第28章 殺人鬼の涙
《英二side》
タブレットで何かを読んでいるアッシュに僕はあくび混じりに声をかける。
「お、はよ…ふぁ」
「ああ…悪い、起こした?」
「ううん……はあ、」
「どうした?」
「いや実はちょっと昨日寝付けなくて…」
「まだ早いんだから、寝てろよ」
「もう目が覚めちゃったし起きるよ、コーヒー飲む?」
「ああ、頼む」
「ユウコは起きてるかな?」
「まだ寝てた」
「えっ?」
「…なんだよ、別にちゃんと寝れてるか覗いただけだろ」
咄嗟に反応してしまっただけで他意は無かったんだけど、アッシュがムキになって言い訳みたいなことを言うもんだから吹き出しそうになる。
「“ちゃんと”って?」
「言葉通りの意味。…もういいだろ、それよりコーヒーいれてくれないの?」
「っふふ、はいはい」
コンロの火を眺めながら、何度目かのあくびをして目を擦る。
「……」
そういえばアッシュの体、傷だらけだったな…
男に形容する言葉じゃないかもしれないけど、あの透き通るような白い肌に傷があるととても痛そうで、目立つんだよな。
古い傷も新しい傷もたくさんあって、前に思わず痛そうって言ったら、慣れっこさと答えたっけ。
沸騰してカタカタと蓋が揺れるポットに急いで火を止めて、ドリップをセットしたカップにお湯を注いだ。
「…いい香り」
チラッと部屋を覗くと、アッシュは再びタブレットを真剣に眺めていた。こういう彼の表情を見ると、ツキンッと胸が痛む。
僕はそれに気が付かないふりをして手元のコーヒーをそっとテーブルに置き、仲間たちが置いていった消毒液を手にゆっくりと近付いた。