ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《英二side》
気持ちを落ち着けて部屋へ戻ろうとして、ふと入口から2人の会話を聞いていた。引っ込んだはずの涙がまたじわじわとせり上がってくる。
…神様、いるならどうか意地悪をしないでください。2人を幸せにしてやってください。アメリカの神様が駄目なら出雲の八百万の神様たち、お願いします。今度帰った時にはしっかりとお参りをしますから、お賽銭も沢山入れますから。
もうだめなんだ、人間の力じゃ…。2人はこんなにも想い合ってるのに、何故かどんどんお互いから距離を取ろうとしてしまうんだ。だからお願いだよ神様…2人のためならなんだってするから、アッシュとユウコに普通の幸せを与えてください…。
「やだなオニイチャン、こんなとこで盗み聞き?」
「っ……ごめ、そんなつもりじゃ」
「……あいつの傍にいてやってくれ」
「なんで、キミは?どこにいくの」
「怒りで気が狂いそうなんだよ」
「!」
アッシュはギリッと歯を軋ませて、コンクリートの壁を殴った。
「…少し頭を冷やしてくる」
ポツリと残して歩き出したアッシュからは、とてつもない殺気が溢れ出ていた。そういうのに疎い僕でもハッキリと感じ取れる程に。
部屋へ戻ると、スンスンと鼻をすする音が耳に入った。なかなか声を掛けることが出来ず、僕は近付いてユウコの頭を優しく撫でた。
その後ユウコ用に隣の部屋も借りたと仲間が伝えに来てくれたけど、結局アッシュは帰ってこなかった。泣いてしまったからか、ごめんねと申し訳なさそうな顔をしてユウコは隣の部屋へと移動して行った。
この日の僕の心はぐちゃぐちゃに乱れていて、寝付くまでにかなりの時間がかかった。
外がうっすら白んできた時にようやく寝付くことが出来て、目が覚めた時には上半身裸でベッドに座るアッシュがいた。