ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《英二side》
「時価30万ドルの黒翡翠だ」
「さ、さんじゅうまん!?!?」
宝石を鑑定するレンズを覗いたフライは感嘆の声をあげた。
「…モノホンだぜ、こりゃあ。ここまでに純度の高い黒翡翠は初めて見たぜ」
「どこでこんな…」
「もらったのさ」
「誰に?」
僕がそう聞くと、アッシュは気まずそうな顔をして「いいだろそんなこと」と吐き捨てるように呟いた。
『あ、私のも…』
ユウコが右耳に手をやる。
「おっ…ちょっと待ってくれ?これ見せてくれ」
フライはユウコの手にあったドレスを広げた。
「…これはジャパンの“キモノ”ってヤツか?」
『うん、そう言ってたよ』
「ほう…こういうのは生地としてよく売れるらしい」
『そうなんだ』
「黒翡翠だけで金額は十分なんだが…頼む、これ譲ってくれねえかなァ?」
『え、うん…もう着れないし、別にいいけど…あ、でも切れてる部分あるよ?血も着いてるし』
「問題ない、サンキュー。んじゃ、前金が入りしだい品物は届ける。それからこいつはヤボを承知で言うんだが、オーサーとまともにやり合う気ならこんなオモチャじゃ歯が立たんぜ」
『!』
「…ん?ユウコ?」
ユウコはビクッと肩を揺らすと早足で部屋を出ていってしまった。アッシュはそれを横目にフライの話を聞いている。
「ヤツぁコルシカ・マフィアの一員となってマンハッタンのグループは事実上ヤツのもんだ。みんなあんたのようなSWATなみのシューティングテクと火器の知識を持ってりゃ話は別だが、あんた以外はど素人のしかもガキどもだ…戦車でもねえ限り勝ち目はねえぜ」
「…それはわからないさ」
「……ふーん…まァいいか、せいぜい気ィつけなよ。お得意さんをなくしたくねえからな…それと、」
フライは首筋をチョンチョンと指さした。
「随分熱い夜を過ごしてるみたいだが、嫁の可愛がりすぎで体力持ってかれンなよ?」
「は?」
「ほいじゃまたな。棺桶の注文も受け付けてるぜ…花輪と牧師の有難いお祈りつき250ドル70セントでどうかね?」
「自分がぶち込まれねえうちに失せな」
「ヘイヘイ」
パタン、とドアが閉まり静けさが戻る。
そんな中、何故か再びシャワーの流れる音が聞こえた。
「あれ?ユウコまたお風呂?」
「………」