ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《英二side》
「…お前の髪も真っ黒だな、目の色も深い闇の色だ。俺とは違う」
「おもしろいね、同じ人間なのに…」
「実は子供の頃は黒いものが怖かった、夜の闇とか…」
「へえ」
「あれは5歳ぐらいの時だったと思うけど、ハロウィンの夜に親父がでっかいカボチャでジャック・オ・ランタンを作ってくれたんだ。そいつを頭から被って子供たちだけで近所を回ってさ…ユウコが熱を出してグループの中にいなかったのと、ちょうど兄さんが学校から帰る時間だったんで俺はみんなと別れてひとりだけ兄さんを驚かそうと森の中に隠れたんだ。ところがいつまで経っても兄貴は帰ってこない…あたりはまっくら、森の中からは奇妙な鳴き声がきこえる。心細くなって帰ろうとすると森の中からでっかいカボチャがゆらゆらと…」
「えっ…」
「俺は大声で喚きながら逃げ出した。ところが頭にかぶったカボチャが重くて思うように走れない……あとでわかったんだけど、あれは森の中に停めてあった車のフロントに映った自分の姿だったんだ。でもそれ以来カボチャは大っ嫌いさ…見ただけで寒気がしてくる」
「…………」
「?…なんだよ?」
「っぷふは!」
「な、なんだよ!?何がおかしいんだ!」
「っはははは!今の、話…他人にしない方がいいと思うよアッシュ…っ特にキミの仲間たちには…凄腕のSPを1発で仕留めるキミがカボチャが怖いって?」
「……」
「タコおやじに教えてやりたいよ…!約立たずのSPよりカボチャの栽培でもしろってね!」
「ふん!…笑ってろトーフ野郎……ッ!」
するとアッシュは突然ピクッと聞き耳を立てた。
「どうかした?」
「シッ…」
ズボンから銃を取り出すと、僕へ合図した。
「…静かに立って向こうのベッドの後ろに伏せろ、早く!」
「……わかった」
アッシュが部屋の入口でジャキッと銃をスライドさせると…コンコンコン、とノック音が聞こえた。