ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《英二side》
…本当に、キスした。
僕の目の前で。
からかったつもりは微塵もなかったけど、まさか本当にするとは思ってなくて驚いた。
大きな体を屈めて、不安そうにそれでいて愛おしそうに唇を重ねたアッシュは、もう誰がどう見たって王子様そのものだった。
アッシュがユウコから離れて僕の方へ歩き出した時、ユウコはゆっくりと体を起こした。
アッシュ、見て
王子様のキスで、お姫様が目を覚ましたよ
…笑ってくれていいって?
こんなに素敵な瞬間を僕にどう笑えっていうのさ。
『…あれ、ここって…っ、エイジ?』
「やあ、ユウコ」
どうして僕の声が上擦るんだよまったく。
徐々に意識がハッキリしてきたように見えるユウコは、何故か突然動揺したように視線をキョロキョロと泳がせた。
『アッシュ…あの、ここまで運んでくれたんだよね…?えっと、ごめん、私…車で、寝ちゃって…その』
アッシュは椅子に座って目も合わせずに「ああ」と小さく答えた。
照れている、には険しい顔だよな。
…一体どうしたっていうんだ?
「ユウコ、お風呂に入ってきたら?きっとさっぱりするよ」
『………』
ユウコは目の合わないアッシュをじっと見つめている。
「ユウコ?」
『えっ…あ、うん…そうする』
靴を履いたユウコはカツンカツンと床を鳴らして部屋を出ていった。
「どうしたの?」
「…いや、」
「話したくない?」
「……食いながらにしよう」
アッシュはカサカサと袋からテイクアウトの箱を取り出した。