ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《アッシュside》
再びユウコに目を向けて、俺はそっとその髪に触れた。
「……」
薄く開いた唇を見て思う。
この眠り姫に“王子様”がいるとするならば、それはきっと俺じゃない。それでも、その馬鹿げたおとぎ話にさえ縋りたいと思ってしまうほどに今の俺は不安に飲み込まれてしまいそうだった。
ユウコの顔の両横に手をついて、伏せられた黒く長いまつ毛に目をやる。
あの姫を救った王子は、もし自分のキスで姫が目を覚まさなかったらとは考えなかったのだろうか。自分ではない誰かを待っているのだという現実を突きつけられる可能性もあったというのに。
顔を近付けると、ユウコの顔に俺の髪が触れた。
「……」
そして俺は車の中での後悔を忘れた振りして、もう一度ユウコの唇に自分のを重ねた。
一瞬だけ触れたやわらかな唇。
それでも尚目を覚まさないユウコを見て自嘲気味に笑った。
「…何をやってんだろうな、俺は」
ユウコに背を向け歩き出す。
「俺はこいつの王子でもなんでもない、お前もわかったろエイジ」
「!…アッシュ、」
「なんだよ、笑ってくれていいんだぜ?」
エイジは俺越しにユウコを見ているようだった。
居心地の悪さにため息をついたその時、
『…ア、シュ?』
背後から声が聞こえた。
振り返ると、ユウコは体を起こし目を擦りながら俺を見ていた。