ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第27章 眠り姫
《アッシュside》
「やめてくれ…覚えてねえんだよ、全然」
「うん、そうなんだろうなって思ってた」
「ああいうのは初めてじゃないんだ…前にも2回くらい同じようなことがあった」
「彼らからちょっと聞いたよ。なんかね、不思議な感じだった。まるでキミもユウコもああやって眠るのがいつも通りみたいに見えたから」
「昔は、な」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
「ごめんよ」
「なぜ?」
「…キミたちのこと、こんな風にからかいたいわけじゃないんだ、ごめん」
「馬鹿だな、気にすんなよ…俺も少し良くない態度をとった。悪かったよ」
目が合うと、エイジは優しく微笑んだ。
やっぱりお前みたいなヤツは初めてだ。
エイジは俺をただの1人の男にしてくれる。
こいつはきっと“アッシュ・リンクス”に強さなんて微塵もを求めていないんだ。俺の心の弱い部分も、穢れた部分も…それらをただ包み込むように受け入れてくれる。こんな風に思える出会いはこの先もうきっと無いんだろうな。
「なに?」
「いや、」
俺は誤魔化すようにエイジに背を向け、ベッドへとやってきた。
「……」
ユウコは今も俺のシャツを手に眠り続けている。息をしているのか不安になるほど穏やかな顔で。
「…おい、そろそろ起きろ」
『………』
「ユウコ、起きろって」
『………』
声を掛けても一切反応を見せない姿に、さらに不安が増す。もしかしたらユウコはもうこのまま一生目を覚まさないのではないだろうか、
ーーあのショーターのように。
「……ッ、」
「アッシュ?どうしたの?」
「エイジ…ユウコが起きない」
「キミもなかなか起きなかったろ?」
「…もしこのままユウコが目を覚まさなかったら、」
手が震え、血の気が引いていく。
アッシュ、とエイジは俺の名前を短く呼んだ。
「“眠り姫”の呪いを解く方法を知ってるかい?」
「…え?」
振り返ると、エイジは人差し指を立てて俺を見ていた。
「眠り続けるお姫様の呪いを解く方法はね、キスだよ」
「キス?」
「そう」
そして、立てた人差し指をゆっくりと俺に向けた。
「…王子様からの、ね」