ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第26章 迷子の唇
《英二side》
「あっ!ボス!!」
「ボスだ!!」
遠くからそんな声が響きだす。
それは本当?アッシュが帰ってきたの?
「ボスが帰ってきたぜ!」
僕は仲間の輝くその目に思わず立ち上がった。
やがて入口に現れたその姿に皆がワッと声を上げる。
「ボス!!」
「待ってたぜぇ、ボス!」
何故かアッシュに抱えられたユウコは『ん、』と身を捩った。
「どうした?」
『トイレ…』
アッシュが床に下ろすとフラフラとユウコは歩いてトイレへと向かった。
「ボス!」
「2ブロック先の路地に俺たちの乗ってきたロールスがある。目立たないように隠しておけ」
「OK、ボス」
「……」
部屋を見渡した彼と目が合うと、アッシュはクッと口角を上げた。やっぱりアッシュだ、戻ってきた、無事に戻ってきたんだ。
「よかったぜ!アッシュ、とにかくあんたが戻ってきてくれたからにはもうオーサーのヤツにでかいツラはさせねえ!」
「…まず食いモンと俺たちの服を調達してきてくれ、それからバイヤーの“チェック”に連絡を。あと“フライ”に俺が買い物をしたがってると連絡しろ…誰か紙とペンを」
「OK、ボス!」
「誰か書くモンもってっか?」
戻って早々仲間たちに指示をする姿は僕の知らないボスとしての彼だった。
「…………ここにメモしたものを大至急用意するよう言え、いいな?」
「ああ、わかったよそれで?」
「不良品を混ぜるなとよく言っておけよ、俺の目を誤魔化すことはできないと」
「イエス、ボス」
なんだ?…何を話してるんだろう。
英語が早口で全く聴き取れないや。
「あと携帯3台とタブレットを頼む」
「あー…OKボス、あの…」
「俺は2時間だけ寝る」
そう言ってアッシュはドサッとベッドに倒れ込んでしまった。