ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第26章 迷子の唇
《アッシュside》
ギッ、
「…………」
サイドレバーを引いて右側を見ると、ユウコは静かな寝息を立てて眠っていた。信号待ちの度にこの穏やかな寝顔を眺めては勢いに任せて唇を重ねたことを後悔した。
これまでに幾度となく自制してきたはずだったのに、衝動的に体が動いてしまっていた。…全くもって冷静じゃなかった。
深くため息を吐いて、ワックスの馴染む髪をかきあげる。
目立ちにくい路地とはいえ、いつまでもここにはいられない。俺は隣のユウコに声をかけ車を降りた。のそっと体を起こし、寝ぼけたまま俺に着いてくるこいつはとてもじゃないが1人でなんて歩かせられなかった。
「掴まってろよ」
そう言って膝の裏に腕をやり抱き上げると、大人しく俺の首に腕を回した。こんなにぽやんと安心した顔で俺に体を預けるユウコには、先程までの色気のある面影はなかった。
この眠そうな顔も、女の表情をした顔も…俺はこいつのどっちの顔にも弱くて、もう勘弁してくれとため息混じりに呟いた。