ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第26章 迷子の唇
『うっ!?』
「ど、どうした?」
何故か舌がビリビリと痺れるような苦い味がした。
『…に、にがい…』
「そういえばあいつに傷薬塗られたな…」
『うええ…っ』
舌をベッと出したままどうしたものかと悩んでいると、アッシュの視線が私の口元にあることに気付く。私もつられるようにアッシュの形のいい唇を見た。
『………』
一度意識してしまえばもうどうにも気を逸らすことはできなくて、舌に残る苦味も忘れてゴクッと唾を飲む。
ゆっくりと視線を上げると、アッシュも同じように私の目を見ていた。至近距離でお互いの熱い視線がぶつかって…私の心臓はうるさく鼓動する。瞬きさえ惜しいほどの高揚感に自然と呼吸が浅くなる。
すると、アッシュはペロリと扇情的に唇を舐めた。その仕草があまりにも色っぽくて、頬が熱くなる。
もうお互いの息が掛かるまで近付いているのに、お互いにその僅かな距離を詰められない。キスがしたくてもどかしくて、気持ちの高まりを抑えきれずに目が潤む。
私はキスをせがむようにアッシュのシャツをクイッと引いた。
「………」
『…っ、』
その直後、ついにアッシュが最後の距離を詰めて唇が重なった。
『んっ…』
心から待ち望んだ感覚にくぐもった声が漏れる。最初小鳥が啄むようだったキスは次第に深くなってどちらからともなく舌を絡めあった。私が首に腕を回すと、それに応えるように後頭部と頬に手が添えられる。優しく紳士的に、それでいて激しく呼吸を奪われるようなキスに涙が零れる。
嘘じゃないよね?このキスの相手は本当にアッシュなんだよね…?私は時折目を開けて、美しいライトグリーンとブロンドを確認せずにはいられなかった。
最後に私たちがキスをしたのはいつ?2年前、それとも3年前だっけ?もう覚えてないし今は何も考えられない。ただただ今この瞬間の熱い唇と舌の感触が蕩けそうな程に気持ちが良くて、耳に流れ込んでくる音に溺れて夢中だった。
ーー好きな人とのキス、それだけでこんなにも自分の中で意味を持つものになるのかと胸が甘く重く痛む。
アッシュだけがいい。
心はもちろん、…本当は体だって、
生涯でアッシュにだけ捧げたかった。
大好きだよ、アッシュ
出会った瞬間からアッシュのことだけが
ずっと好き
言葉に出来ない分、
伝わって欲しい。
どうか、どうか…