ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第25章 友よ
「俺を、殺してくれ…頼む」
アッシュの殺してくれという声が、
ショーターがエイジに襲いかかる音が、
私の耳の中にこびりついて苦しい。
だって…どうしたって選べない。アッシュを殺すことも、エイジに殺させることもどうしたって私には…。
「…ユウコ、…ユウコ!」
『……アッシュ、』
「アイツに教わったところ…どこを刺せば殺せるか、覚えてるだろ?」
『や、だ……』
「早くしてくれ…!このままだとエイジが…!」
『やだ…アッシュできない…!』
「お前に逝かせてもらえるなら本望だ、気にしなくていい。これは俺にとっての救済だから」
首を横に振る私の目から涙がボロボロと溢れる。
そんなことを言わないで…
私の気持ちを無視しないで…
オーサーはニヤリとアッシュを見つめながら、私を後ろから抱き締めた。
「おいユウコ…言いかけた言葉があったなァ?」
『……っう、ぅ…』
「言ってみな、この可愛い口で…」
「やめろオーサー!!離れろ!!」
どれを選ぶこともできない私には、
もう、これしかない。
…この、結末しか。
私は目に焼き付けるようにアッシュを見つめてから、オーサーの首に腕を回し唇を重ねる。
そして深く舌を絡め、目を見つめる。
「…っ!」
『……っん…ぅ』
「や…やめろ…ユウコ!!」
「っ…最高のキスだ…」
『…っん、…オーサー』
「これが、お前の答えだな?」
『うん…“これが”私の答え…』
私はそう言ってオーサーと目線を合わせたまま、手に握ったナイフを自分に向かって振りかざした。
「ユウコ!!バカ、やめろー!!!!」
「…っ!?おま、何してやがる!!」
私の右脇腹目掛けて力を込めたはずのナイフは皮膚を切り裂いたところでオーサーの手によって止まってしまった。…アッシュのバカ、あと少しだったのに。
アッシュを殺すことも、私がオーサーのものになるのも…それは私の中では“死”と同義だ。
それに、私が死ねばオーサーのこの余計な駆け引きなんて無意味になる…そう思ったのに。
中途半端にナイフでついた傷が熱を持ち、顔が歪む。
「うわあっ!!」
エイジの声に目をやると、彼はショーターによって服が裂かれところどころ、血を流していた。