ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第24章 あの頃のキミへ
《アッシュside》
強く目を閉じたユウコが愛おしくて、このまま時間が止まればいいなんて俺らしくもない非現実的なことを思った。久しぶりに触れた小さな耳は衝撃への緊張からか、少し赤くなっている。
ユウコはいよいよ緊張に耐えきれなくなったのか、ゆっくりと目を開けた。俺は内心ハッとして指に力を込める。
大袈裟なほどの音が響いて、ユウコの耳には小さな赤い点が付いた。
「おお、アッシュ上手いね!」
マシューはパチパチと手を鳴らしたけど、そもそもこれに上手い下手があるのか疑問だ。
「…痛いか?」
『ちょっとじんじんするけど、音の割には大丈夫かも』
ユウコは、俺に黒翡翠のピアスを差し出した。
『はいこれ、あれ……アッシュ?』
「…いや」
俺はそれを受け取らずに、自分の左耳のピアスを外した。
『え?』
「お前、こっちつけろよ。俺はこっちのをつけるから」
ユウコのまだ開けたばかりのピアスホールに、ゆっくりと刺し込む。
自分の目の色の石をお前に、なんて…己の独占欲の強さにため息が出る。
『ありがとう、じゃあこっちのは私につけさせて?』
ユウコはそう言いながら俺に近付き左耳に触れた。
…手が震えてる。
真剣な顔をして慎重に穴に刺してるのが手に取るようにわかる。
『痛かったら言ってね?』
「………痛っ!」
『ご、ごめん!』
「…ばーか、冗談だよ」
なかなかピアスが貫通しないのか少し時間がかかったが、無事に通ったようでホッとした表情を浮かべた。
『あっ!』
「なんだよ」
ユウコが上げた声に反応すると、突然ユウコが俺の耳を舐めた。
「…なっ!…んだよ」
『ごめん…血が出ちゃってたから』
「……」
俺は深い息を吐いて、心を落ち着けた。