ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第23章 魔法使いとシンデレラ
華奢なのに、やっぱり男の人なんだと感じる力の強さ。
「……大丈夫?」
『……』
ユーシスさんは何故そんなに哀れむような目を私に向けるんだろう。私はそんなに痛々しく辛そうな顔をしているのだろうか。
…わからない、どれが本当のユーシスさんなの?
穏やかにお茶の淹れ方を教えてくれたユーシスさん、バルコニーでお互いの過去を話したユーシスさん、ショーターを苦しめ私たちを裏切ったユーシスさん…そして今のユーシスさん、この優しさもまた嘘で固められたユーシスさんなのかな。
すると、ユーシスさんは私の心を読んだように2人だけにしか聞こえない声でこう言った。
「キミが僕を信じられないのは当然だと思うけれど、僕は何故かキミのことを放っておけないみたいだ」
『え?』
「……これを飲むといいよ」
そう言ってユーシスさんが差し出したのは、小さく折りたたまれた白い紙だった。
『…これ、なに?』
「薬だよ」
『薬…?』
「あの男のことで、体に何か気がかりなことがあるんでしょ?」
あの男、とユーシスさんが目を向けたのは私の後方…オーサーだった。
…もしかして、これって
「…これはFSHとLH、つまり避妊薬としての成分が含まれてる。有り合わせだけど、体に害はないし効能も間違いない。早くお飲み」
『…………』
無意識に頬に涙が伝う。
「ちょっと…せっかくの化粧が落ちるよ」
ユーシスさんは慌てたように私の涙を拭った。
『…ッ、ありがとう』
本当はもっと感謝を伝えたいのにそれしか言葉にならなかった。
「てめえ!」
ガタッと机を揺らしてアッシュが立ち上がった。
「やだな、野蛮な男は。
…キミのためでもあったのに」
「なに?」
「なんでもないよ。ほら」
私は差し出された水で薬を流し込んだ。
もう一度お礼を言って歩き出し、アッシュの隣の席にたどり着くとアッシュが椅子をひいてくれた。
彼のライトグリーンの瞳と視線が合って、あたたかいような苦しいような言葉にならない気持ちになる。
久しぶりに会った気がする。
会いたかった…。
怖かったよ、辛かったよ。
ねえ私たち、まだ一緒にいられる…?
それと、やっぱりアッシュは格好良いな…なんて。
色々な想いを鎮めるように、私は深く息を吸った。