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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第8章 止まらない涙


《アッシュside》

「……ほら」

あの頃を思い出すようにペンを動かし、エイジにそのメモ帳を渡すと


「……佐藤、…優子?」

と呟いた。



そうだ、それがあいつの本当の名前だよ。
あいつはユウコ・リンクスじゃない。
…佐藤優子だ。
俺だけが知っていた、ずっと大切にしてきた名前なんだ。


名前は“命”そのものだと聞いたことがある。
ショーターにも、スキップにも…誰にも教えなかったこの名前を、今おまえに託す意味…エイジ、わかるかい?





「ねえ、ひとつ聞かせて。」

「…なんだよ?」

「アッシュはユウコのどんなところに惚れたの?」





俺は一瞬、相当驚いた顔をしただろう。






あいつのどんなところに惚れたか…
そんなの、わかんねぇよ。

俺は今まであいつの色んな一面を見てきた。
でもどんなところを見たってやっぱりただ愛おしかった。







「……Everything.」


俺がそう答えると、エイジは膝の上でグッと両手を握ると、



「…アッシュ、キミのお願いはきけない。」

何故だ、エイジ…!

「僕はキミの代わりなんか、ごめんだよ。彼女のことがそんなに大事なら、自分で守れ。」


そういうエイジの目は拒絶の目ではなかった。
強い、生きた力のある目だった。


そんな目で見ないでくれよ…
俺はエイジから目を逸らす。

喉の奥がツンと熱を持つ感覚がした。



わかってる…
わかってるんだよ、そんなこと

そうしたいのは山々なんだ…
当たり前じゃないか。


だって俺はこんなにもあいつのことを、愛してる



俺は窓の方に顔を向けた。
こんな顔を見られたくなかった。





熱い涙が頬を伝う。



エイジが部屋を出ていくのを感じた。


座っていた椅子にふと目を向けると、メモ帳が乗っていた。だが、先程俺が書いたあいつの名前はそこにはなかった。

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