ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第23章 魔法使いとシンデレラ
《マシューside》
『………』
口をポカンと開けたまま微動だにしなくなったユウコ。
俺は近づいて、背中をそっと押す。
『…こ、これ…』
「ユウコに似合うと思ってキミの為に仕立てたんだ」
日本の着物とドレスが美しく合わさった華やかだけど繊細な、ユウコのイメージにピッタリな和ドレス。サラッとしたサテン生地と重厚感のある着物の生地がマッチして、まさに日本生まれアメリカ育ちの彼女を表したような出来だ。
「色は黒と赤、それにライトグリーン…この色はあの時ユウコが選んだ色味を参考にしたよ。あぁ、やっぱり日本の着物は染めが細かいから美しいね、ユウゼン…だっけ?日本独自の染め方の技法なんだけど、遠くから見るのと近くから見るので全く違った顔を見せてくれるから本当に惚れ惚れしちゃう……ってユウコ?」
『……こんなに素敵なドレスを、私が着るの?』
「言ったでしょ?これはユウコの為のドレスだよ」
『着こなせるかな…』
「なに?俺の見立てを疑うの?」
俺がからかうようにそう言うと、ユウコは首を横に振った。その頬はほんのり染まって、嬉しそうな表情に見えた。
「………」
ユウコは女の子なんだ。
きっと、可愛い服やメイクに憧れるただの“普通”の年頃の女の子。
その普通を奪ったのはあなただよ、パパ・ディノ。
この罪は重い。
2人の運命を変え、弄んだ罰はいずれその身に降りかかるだろう。
…ユウコ、俺は抗ってほしい。
その運命を変えて、幸せを叶えてほしい。
変えられる、大丈夫さ。
キミはひとりじゃない。
信じて、キミ自身を。
信じて……キミだけの王子様を。
「さあ、そろそろ舞踏会の時間だね。
それを着て、俺の魔法を完成させてほしいな」
ユウコはまっすぐ1歩、何かを決心したような足取りでドレスに近付いた。
『…マシュー、ありがとう』
振り返ったユウコはそれはもう美しくて、
強くて気高い本物のお姫様のように見えた。