ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第23章 魔法使いとシンデレラ
《マシューside》
「………」
こんなに真剣に仕事をするのはいつぶりだろう。
もちろんどんな時だってしっかりと仕事はこなしてきた、だけどこんなにも俺の全てを懸けたいと思える現場はそうそうない。
何パターンものユウコを思い浮かべて、その中で1番魅力的な姿へと少しずつ彩っていく。
『…どうなってる?』
不安そうなユウコの声にピンと張り詰めていた俺の空気がふっと緩む。仕上がってから見てもらおうかなと、俺はユウコの目の前の鏡に布を掛けたから経過が気になるのか。
「っふふ、最高だよ?とーっても素敵」
『ほんと?』
「ああ、楽しみにしててよ」
『…マシュー、かっこいいね』
「へ?なにさ急に、照れるじゃん」
『いつも自信満々で、本当にすごい』
「自信ね、うん…それだけはいつどんな時も持てるようにめちゃくちゃ努力した」
『自信を持つ努力?』
「うん。自信ってさ、実力や技術とは比例しないんだ。どんなにすごい腕を持っていても、いざ現場に行くと俺なんかにこんな仕事務まるわけないって不安で足が竦んじゃったりして」
『うん』
「俺はそうはなりたくなかった。どんなに大きな仕事だって、俺に任せて!って胸を張って言えるようになりたかった。だから自信を持つために俺はたくさん勉強して、たくさん練習して…まあ結果的に、周りにも認めてもらえるだけの実力もついた。あの時努力したから今の俺がある。いざと言う時にも、あんなに努力したんだから大丈夫だって俺が思えるように、…俺が俺を疑わないでいられるようにね」
『……自分が自分を疑わないように』
ユウコは咀嚼するように俺の言葉を繰り返した。
「うん、そうだよ。ねえ、そんな俺がユウコに魔法をかけたんだよ!どう?ユウコも自信が湧いてきたでしょ?」
『…ふふふ、なんかそんな気がしてきた』
少し大袈裟なモーションで俺がそう言うと、ユウコは可憐に笑った。かわいいな、キミからは幸せの香りがする。
「そうこなくっちゃ!
…さあ仕上げだよ、シンデレラ」
俺は大きなクローゼットの前に立ち、その扉を勢いよく開けた。