ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第22章 不仕合せのlove bite
ここに座って、というように無言で引かれた椅子に腰掛ける。
「…どう?少しはスッキリした?」
『うーん…どうかな』
「あぁ、やっぱり目が腫れてるね…上向ける?」
上を向くと、冷たいタオルが目の上に乗せられた。
『…ひんやりきもちい』
「女優とかモデルってさ、今のユウコと同じように目を腫らして現場に来ることがあるんだ」
そう言ってマシューは私の首筋と肩をマッサージしてくれた。そして、目の上のタオルがよけられたかと思うと今度は温かいタオルが乗せられる。
『わ、』
「こうしてね、血行を良くすると目の腫れなんてすぐに良くなるんだから」
そして化粧水や乳液を私の顔に塗って、骨格に沿うように撫でられる。
『マシューの手、あったかい』
「それよく言われる!自分じゃよくわからないけど…さあ、目を開けてみて」
『………あれ?』
先程までの重い感じが一切なく、いつも以上に目の開きが良くなった気がする。
「うん、いい感じ」
『す…すごい、魔法みたい』
「言ったろ?俺の本気を見せてあげるって、マシューの魔法はまだまだ続くからね」
パチッとウインクしたマシューは、数種類の肌色の液体を混ぜて私を見た。
「…うん、この色味だな。ちょっとくすぐったいかもしれないけど我慢してね」
『ん?…うん』
マシューの指が伸びたのは私の首元だった。
一体マシューは何をしてるんだろう?
「1回見てみる?」
『うん』
マシューが私の前から体をどけると、目の前の鏡に映った光景に驚いて思わず声を上げた。
『えっ…!?』
先程まであったはずの首の鬱血痕が、片側だけ綺麗さっぱり消えていた。
『……きえ、てる』
「上手く隠せてるでしょ?」
『…すごい、』
「…ユウコ?」
『すご…く、うれし…っ』
涙がつーっと頬を伝う。
「ッ……全部隠そうね。今だけでも、ユウコが胸を張ってアッシュの前に立てるように」
『あり、がと…っ』
マシューは優しく私の手を握って、「泣くと目が腫れちゃうぞ」と震えた声で言った。
それから10分ほどすると、私の体にあったあの忌々しい鬱血痕たちはひとつ残らず消えた。たとえそれが今だけでも、私は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。