ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第22章 不仕合せのlove bite
《アッシュside》
「実に美しい、生まれながらの貴族のようだ…私はぜひお前をヨーロッパへ、社交界へ連れていきたかったよ
ーーアッシュ」
よくもそうツラツラと恥ずかしい言葉を並べられるもんだな。
「席に着きなさい、みなさんお待ちかねだ」
チラリと左側を見ると、ユーシスと目が合う。
「………」
お前が謀ったんだな。
お前がユウコを、あいつらを…。
「…化けたもんだな、山猫どころか化猫だぜ」
「お前のために特別に選んだものだ、わかるかね?」
目の前にワインが注がれる。
ジジイは昔からこういう遊びが好きだった。
…乗ってやろうじゃねえか。
口に含んだ瞬間、すぐにピンときた。
この軽く繊細な口当たり、鼻に抜ける華やかかつ土のような余韻…
「“ロマーニュ・コンティ”…69年ものだと思う」
「ブラボォ!その通りだよ、実に素晴らしい…私の教えたことを忘れずにいてくれたとは嬉しい」
「………」
「素晴らしい夜になりそうだ…」
辺りを見回すとなんとも言えない目で俺を見るオッサンにイベ。
…エイジがいないな、ショーターもだ。
あいつらはどこにいる…?
「どうだね?アッシュ…私からのプレゼントは気に入ってもらえたかな?」
「…耳に穴なんかあけられて気分のいいはずがない」
「その翡翠はお前の瞳の色にあわせて特別に探させたものだ。それほど明るい透明な緑色はそうあるものではない…時価40万ドルは下らないだろう」
「…ふん、どうりで耳が重いわけだ」
ガタガタと手のグラスを震わすオッサンたち。
ああ、可哀想に…こんな下らない余興に付き合わされて。
「キミたちは知らないかもしれないが、アッシュはかつて私の経営するクラブの大切な“商品”だった。“商品”にもそれぞれランクがあって最高に属するのが白人で金髪の子供だ。その中にも細かいランク分けがあって、ダーク・ブロンドよりはライト。ライトよりはプラチナ。瞳の色もブラウンよりブルー、ブルーよりブルーグレイ…さらにグリーンからライトグリーンと希少価値が高ければ高いほど値も釣り上がる。宝石と同じことだ…彼はその中でも最高の値のつく商品だったのだよ」
「ふん」
鼻で笑うオーサーと目が合えば、ヤツはいつになく余裕そうな笑みを浮かべていた。
…なんだ?
妙に胸騒ぎがする。