ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第22章 不仕合せのlove bite
《アッシュside》
屋敷に到着する頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。車のディスプレイを見る。
…7時前か。
「…うわ、広いな」
「ひぇー…信じられねえぜ」
相変わらず悪趣味なこった。
中へ入ると、ズラリとスーツの男たちが俺らを待ち構えていた。
「ようやくおでましか、アッシュ・リンクス」
「ユウコはどこだ、先に来てる連中もいるだろう!」
「後で会わせてやる…が、まずは風呂に入れ」
「何?風呂に入れだって?」
「そうだ、パパ・ディノがお前をディナーに招待したいと仰っている。その薄汚いナリでは他の客が迷惑をする」
「…何を考えてンだ、あのじじいは。また何かつまらない遊びを考えたってわけか?」
「ヘアデザイナー、スタイリストは全て一流を呼んである」
我こそは、と言いたげに歩みを進めて出てきた一流のスタイリストとやらはどいつも、いかにもな服に身を包んでいた。
「ふうん…一流ねぇ?俺は昔、ここで本物の一流に世話になってたんだけど?」
「…ふん、生意気な野郎だな。あいつを呼べ」
バタバタと音がして目を向けると、えらく懐かしい男がこちらへ走ってきていた。
「アッシュ…ッ、アッシュー!!」
「……やぁ、久しぶり」
「…こんなに大きくなって!うわぁ…かっこよくなったな!」
「マシュー、あんたはあまり変わらないな」
「こいつがあんたをご指名だよ」
「えっ…?」
「あんまり頭とかいじくりまわされるのって好きじゃないのさ。どうせやられるなら、俺はあんたがいいなって」
「……ッ…!」
「なに?」
「こんなに嬉しいことってないよ…!
任せて、俺が世界一の男にしてあげるから!」
俺はマシューに連れられ長い廊下を歩いた。
「…なあ、ユウコ知らない?」
「実は俺、今日ユウコの担当で呼ばれたんだけどまだ会えてないんだよね。本当はもうセット始める時間なんだけど、部屋に行ってもいなくてさ、あちこち探したんだけど見当たらなくて」
「そう…」
「ユウコ、綺麗になったでしょ?」
「あいつは昔からずっと綺麗だよ」
「……ふふ」
「なに?」
「…あの頃から変わらないでいてくれたんだなって…」
「…さあ、どうだろうな」
「ユウコのこと、今も好き?」
「ああ……今は、愛してる」