ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第21章 New York
またしても私はドアに背にして座っている。
でも誰が入ってきたのか、今度は一瞬でわかってしまった。
靴の音、歩き方、この独特の香り…
『………っ』
心臓だけが強く鼓動を響かせて、他はまるで石になったかのように体を動かせなくなった。
「会うのは初めてだな、ショーター・ウォン。ごくろうなことだ、わざわざ土産物の護衛をしてくれるとは」
「…ユーシス、おいで」
視界の端で、ユーシスさんが立ち上がるのが見えた。
「…こちらは?」
「これは我々の末の弟、ユーシスというものです。我々の友好の証としてこの一件の落着までお手元にお預けするようにと…兄から言伝です。どうぞ、お受け取りを」
「…これは驚きましたな。あまりに美しいので女性だとばかり…東洋の神秘のなせる技ですかな?」
「お気に召しましたならお側近く、召し使っていただいてけっこうだと兄が申しておりました」
「ほう?わかりました。大切な客人としてお預かりしましょう。…ところで、東洋といえば……」
『…………!』
背中に刺さるような視線を感じる。
「ユウコ、おいで」
『…………っ』
「…ユウコ、
私は“おいで”と言ったのだよ?」
その言葉にビクッと肩が跳ねた。
幼い私が苦しめられた呪いのような言葉だ。
私は震える足で立ち上がり、くるりと声のする方へ振り返る。ディノはソファに深く座り、私を見つめていた。
「おいで」
冷たい唇が勝手に動き出す。
『…は、い…っ…パパ』