ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第21章 New York
「…何をしてる、早く降りるぞ」
オーサーに腕を引かれ、私は車から降りた。
よく知る景色に、よく知る建物。
目眩がさらに酷くなり、私はしゃがみ込む。
「…おい、お前大丈夫かよ」
『……ん、』
別の車だったショーターも私を見るなり飛んできてくれた。
「ユウコ?どうした、大丈夫か?」
『…ちょっと、めまい』
「ほら、掴まれよ…」
オーサーは私に手を差し出した。
そんな手、取れるわけがない。
「……ッ」
『や、ちょ……やめて、』
なかなか動かない私に痺れを切らしたのか、オーサーは私を抱き上げた。
「暴れんな、落とすぞ」
『…………』
手足は冷たく、耳が遠くなるほどのギリギリの意識の中で暴れる元気もない私は何も言えず目を閉じた。
建物の中に入ると、懐かしい匂いがした。
徐々に目眩が落ち着いてきて、『歩けそう』と伝えると床に下ろされる。ここはあの頃と何も変わらない。…といってもまだ数年しか経っていないのだけど。
通されたのは客間だった。
オーサーは部屋には入らず、何処かへ消えていった。
「…現在他們進行假談判(今頃は茶番の最中か)」
突然ユーシスさんが中国語で何かを話した。
「你为什么不告诉他们我?肖達…(どうして僕のことを彼らに話さなかったんだい?ショーター)」
「我不是他们的朋友… 你为什么在这里?你哥哥到底在想什么?(こいつらに義理立てしてやる必要はねえからな…お前こそ何故ここにいる?いったいお前の兄貴は何を考えていやがる?)」
何を話しているのか全くわからず、ユーシスさんを見ると彼は悲しそうにふっと微笑んだ。
「…僕も君たちと同じ立場さ」
「なに?」
「兄が僕をここへよこした、チャイナタウンの友好の証として」
『…え?』
「……ふん、哀れなものだな。道具に使われてよ」
するとショーターに護衛の男が飛びかかった。
「きさま!言葉に気をつけろ!李家のご子息になんて口の利き方だ!」
「…いいよ」
そしてユーシスさんはそれを静かに制する。
「本当のことだ」
「若様!」
その時、扉が開く音がした。