ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第21章 New York
車に揺られ、辺りを見回すと目眩がした。
私は知っている、この景色を。
この道順を。
この先を進めば、どこに辿り着くのかを…。
「…おい、どうした顔色が悪いぞ」
『………』
「……おい」
『アッシュは……?』
「……っ」
『ねえ…アッシュは、今どこ…?』
「…その口から他の男の名前は聞きたくねえな、
とくにその男の名前は…」
そう言ってオーサーは反対側の窓に凭れてしまった
震える私の手足。
どうしよう、どうしよう…
屋敷を出てから、1度も会っていない。
もう一生会わないだろうと思っていたのに。
彼は幼い私たちの絶対的支配者だった。逆らえないことが当然で、途中からはそれに対し疑問を感じることさえ無くなっていた。彼が望むことは例え自分の意思に反していても何でもしてきた。
…そう、何でも。
彼は私たちから、“普通”を奪った男。
顔を合わせるのがとてつもなく怖い。
彼の前に立ったら私はどうなってしまうのだろう。
怖い、怖い怖い…
必死に忘れようとしたあの頃を思い出してしまいそうで、あの頃の全てが戻ってきてしまいそうで。
…傍にきてよ、アッシュ
私ひとりで、どうしたらいいの