ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《月龍side》
重いドアが音を立てて閉まるのを僕は見ていた。
「…どうした?お前ともあろうものが随分と感情的だな」
そういって僕の髪をするりと指で弄ぶ兄さん。
「別に、少し疲れてるだけさ」
「…しかし、お前は相変わらず美しいな。我が弟ながら心騒がせられる。それにしても、お前はますます似てくるな…父の心を乱したあの女に」
「………」
「今でもよく覚えているぞ、あの女が死んだ時俺はまだ15だったが…今のお前に生き写しだ。…実に美しい女だったな」
「僕もよく覚えていますよ、まだ6つの時だったけれど…両の目から涙を、胸から血を流していた」
「恨んでいるのか」
「…もう、すんだことです。10年も前のことですから」
すんだこと、
自分でそう口にしながら本当は何ひとつ片付いていない。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。
悔しくて、悲しくて…
何故自分だけが今も生かされているのか、疑問でしかない。
あの時、共に逝けていたらよかったのに…。
ーー『なんだか本当に似てますね、私たち』
ーー『……ショックなの』
ーー『…似てると思った…本当に、分かち合えると思った…あなたのこと』
ーー『…嘘だったなら、もういい』
胸がチクチクと痛むのは何故?
…もうどうだっていいじゃないか。
これは元々僕に課せられた使命だったんだ。
嘘をつくことも、裏切ることも、
僕はもう何も感じない、
…感じていないのだから。