ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
「何をしたんだ!」
「…これでもう彼は動けない。もう目も見えない、耳も聞こえない。指1本動かせない…ただの生きた人形さ。だけどこっちの男は違う、目も耳も聞こえるし意識もしっかりしている。そういうふうに薬を調合しておいたのさ…。つまり、この一部始終を見てる。あんたの裏切りもね…。アッシュに伝えて?ニューヨークの李王龍の元へ来いって。さもなければ、この少年はディノ・ゴルツィネの悪趣味のえじきだ。帰ってくる時は…生命はもちろん、人の姿をしてないだろうね」
「…くそ!」
「……さあユウコ、キミはどちらがいい?お茶を飲む?それとも、僕に刺される?」
『………っ』
「ああ、ごめんよ…いくら頭の回転が早い幼なじみがいようが、キミは普通の女の子だものね。話に追いついてこれない、か」
『…私も連れていく?』
「もちろん」
『なら、どちらも選ばない』
「…え?」
『私は逃げないから…何を聞いても、何を知っても』
「っふふ、…へえ?」
『どうしても寝かせたいっていうなら、もうどっちでもいいよ…好きにして』
「ねえ、強がってるつもり?ほらこんなに震えてるのに」
ユーシスさんは、私の首筋をするりと撫でた。
『……ショックなの』
「なにが?ショーターが裏切ったこと?」
『違う!…似てると思った…本当に、分かり合えると思った…あなたのこと』
「…っ」
『…嘘だったなら、もういい。それにショーターのことは』
「……ユウコ、俺…っ」
『ショーター…大丈夫。大丈夫だから』
「ユウコ…」
「お車が参りました」
声に振り向くと、そこにはスウルーさんがいた。
『…スウルーさん』
「………」
「行くよショーター、ユウコ」
ショーターはエイジを抱きかかえ、イベさんに声をかけた。
「イベさん…すまねえ、俺を恨んでくれてかまわねえ…俺は裏切り者だ。だけど約束するよ…これだけは信じてくれ、俺は必ずエイジを守る…俺の命にかけてこいつには指1本触れさせねえ…」
私たちは屋敷の外に出た。
「…どうした?良心が痛む?…でももう遅い、あんたも覚悟を決めることだな、ショーター」
「………」
外にはスーツを着たたくさんの男たちがいた。
いつの間に…。
車に乗るよう促され、私は乗り込んだ。