ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《ショーターside》
2人がパタパタと階段を上る音がする。
「…………」
「さすがアッシュだね、あのどさくさであそこまで気が回るなんてさ」
「…ッ、やっぱりお前が!」
「けれど、さすがの彼もあんたが裏切り者だなんて夢にも思ってないらしい。わざわざ残してくれるなんてありがたくて涙が出るね?」
「……っ!!」
「…さあ、手伝ってもらおうか。ショーター・ウォン」
そう言って俺を指差すと薄ら笑いを浮かべながら、ヤツはどこかへ消えていった。
『…ター、ねえショーター?』
「っ!」
『ショーター、どうしたの?』
「…いや、ちょっとな」
『ユーシスさんは?』
「……あのな、ユウコ」
「みなさん、お茶を淹れました」
『あ、ユーシスさん…ありがとうございます』
「いえ」
『ショーターも向こうでお茶にしよう?』
「こんな時に茶なんて飲んでいられっかよ!」
『…ご、ごめん…私だってすごく心配だけど、今は信じるしかないから…』
「あ……違えんだ、悪い…」
「こんな時だけれど…いや、“こんな時だからこそ”一旦落ち着きましょうよ。…ねえ、ショーター?」
「………」
イベとエイジ、ユウコが座るのを見ながら、俺の手はずっと震えていた。すまない、みんな…俺にはどうしようもなかったんだ…すまない、ユウコ…すまない、アッシュ……。
すると、
「…っぐわ…!」
突然イベが苦しみながら倒れ込んだ。
ガチャン…と茶碗が転がる。
「伊部さん!?」
『イベさん、大丈夫!?』
「伊部さん!…どうしたんです!大丈夫ですか!?」
ゆらりと、まるで本物の蛇かのようにエイジに近付いた月龍は針のようなものをエイジの首に刺した。
そして、気を失い後ろに倒れ込むエイジを抱えると、フッと笑った。